経理の記帳とは何でしょうか。簡単に言えば、一つの人格(個人、法人)におけるお金の流れを事細かに記録しておくことを指します。その記録する先を帳簿と言います。その帳簿の書き方、書き残す方針、ポリシーには、大きく分類すると3つの主義が存在します。
今回は、経理の記帳についてその方式、主義から解説します。
まず改めて経理の記帳について改めて考えます。
冒頭にも述べた通り、簡単に言えば、一つの人格(個人、法人)におけるお金の流れを事細かに記録しておくことを指します。なぜそのようなお金の流れを事細かに記録する必要があるのでしょうか。理由としては大きく分けて2つあります。「税金を正しく納める為」と「現在の状態を正しく把握する為」です。
税金を納めることは日本国憲法第30条に記載されている国民の義務です。日本においては憲法で規定されていますが、基本的に世界中のどの国でもその国民の最も基本的な義務として規定されています。
どの国においても基本的には、所得や収益、保持している財産に基づいて等しく国民が納める必要があります。日本で身近なところで言えば、所得税や法人税をその所得や収益に応じて税金を納める必要があるということです。
では、その正しく納めるべき税金はどのように決めるべきでしょうか。雰囲気や気分だけで決められては納得できるものではなく、不公平であるのはもちろんですが、何をどのくらい納めなければならないのか分からないので、安定した生活を送りにくくなります。突然現在保有している財産、貯金以上の課税をされても、払えるものではありません。
実際にはどの国においてでも、どういう状態の時に、どのくらい納めるべきかは法律で規定されているのが、一般的です。日本においては、所得の多寡によって納税額が決まるルールについては所得税法、法人の収益の規模によって納税額が決まる法人税法と決まっています。
法律に規定されている基準(所得額や収益額)を満たしているかどうかを正しく判定していく、また裏付けの証拠として「記帳」を行います。普段、給与収入を得て生活をされている方はあまり意識せず、「記帳なんてやっていないかも」と心配されるかもしれませんが、給与明細などを見ると源泉徴収をされていれば会社代わってやってくれていますので、心配入りません。
※なお余談ですが、実際にはさらに細かく給与以外の損益も合算することで、還付金が期待できたりするので、1年通しての記帳はぜひやった方が良いと思います。株やFX等の投資をしているなら確定申告などをご自身でしっかりと調べてみると良いかもしれません。
財産、お金が減るのは不快感が伴うので、徴収する側(国や地方公共団体)はそれに見合う根拠として、徴収される側は必要以上に徴収されない為、もしくは追徴課税をされないようにするための根拠として、自身のお金の流れを記帳した帳簿を作成します。
正しい証拠とする為には、今回のテーマである経理の記帳の方式、主義が重要になってきます。一定の方式に基づいてなければ正しさの証明は難しいからです。
税金を正しく納めるためだけではなく、経理の記帳を行うもう一つ重要な動機が、「現在の状況を正しく把握する」です。まず原義的な点で言うと、正しい現状把握をしなければ、欲しいものやサービスを購入することができません。これは普段の生活の実感から考えると分かりやすいです。
普段、何かを買い物するときに「いくら支出できるか」を常に考えていると思います。どんなに欲しいものがあったとしても、先立つお金がなければ買うことができません。具体的な行為に置き換えると、財布の中身を確認し、足りなければスマホで現在の貯金額を見てお金を支払っても良いかを考えます。家賃の支払いや光熱費の引き落としなども考慮しなければならないかと思います。
何かを買う瞬間は、その場で上記に挙げたやり方で現状を把握することで、ギリギリ正しい判断は成り立つかもしれません。しかし例えば引越しなどを行う際に家賃をどのくらいにするか決めなければならない時などは少なくとも1ヶ月単位の家計の損益を考える必要があると思います。その時には記帳してあるととても分かりやすく判断することができるはずです。
個人事業主などになってこれば、収入の管理も給与収入だけではなく多岐にわたる可能性があり、支出する物、事は様々で瞬間々々で常に判断し続けるには無理があります。その形で続ければ、おそらくミスが多発するでしょう。会社の規模になればさらに混迷を深めることになります。複数の人が同時に動いている中で正しくお金の流れを経理の記帳なしに把握することはできないでしょう。
会社規模になれば、個々の備品の購入から人材の獲得、不動産や設備投資まで、「お金」で換算して考えることは膨大にあり、何となく雰囲気だけで決めていたら、すぐに行き詰まります。正しい状況を把握出来なければ、正しい判断を下すことができません。その為に経理や会計というセクションを設けて専任で正しい状況把握を常に行えるようにするわけです。
少し前置きが長くなりましたが、その経理の記帳を行う方式について解説していきます。前述した通り、大別すると3つの主義(方式)、「現金主義」と「発生主義」、「実現主義」が存在します。それぞれセクションに分けて解説していきます。違いのポイントは、『計上するタイミング』です。
現金主義とは、お金のやり取りが発生した時点で記帳していく方式のことです。一番理解しやすいシンプルな方式と言えます。イメージとしては銀行の預金通帳をイメージしたそのままで、お金の出入りの記録を付ける方式です。
この方式のメリットは、経理の記帳するタイミングが非常に分かりやすいので手間が少なく、帳簿を証拠として考えた時、不正をする余地が少ないことが挙げられます。現時点の瞬間的な手持ちの現金、財産の金額の把握がしやすい方式です。
逆にデメリットはシンプルゆえに期間がものの動きとお金の動きが一致しない場合の状況把握がしづらくなることが挙げられます。商慣習で言えば、「掛け取引」が端的な例です。前払いや未払いのまま商品を仕入れた場合は、商品を購入した日とお金を払った日がずれます。会社組織であれば、この状況が同時多発的に継続して発生するので、一定の期間で損益を考えなければならない時に、そもそも計算が成り立たず、お手上げになってしまう可能性があります。
もう一つ大きなデメリットは、税務申告では一定の条件を満たした時にしか認められていないことです。基本的に納税においては、後述する「発生主義」による帳簿を要求されます。一部、現金主義での帳簿を認められてはいますが、非常に小規模なケースに限定され、控除額なども減額されることになります。
つまり少なくとも個人事業主や会社の実運用として、現実主義はあまり運用されていない方式と言えるかもしれません。家計の把握などシンプルな状況には非常に適していますので、使い所を考えればシンプルな分、運用しやすいはずです。
発生主義とは、「金銭のやり取りの有無に関係なく取引が発生した時点で費用と収益を計上する(帳簿につける)」方式のことを指します。発生主義のポイントは、現金主義とは異なり現金収支が損益になるわけではなく、「収益と費用の差」で損益を計算するところにあります。主に損益計算を正しくするのに適した考え方、方式で他の方式では認識させづらいものも計上でき、期間中の損益が理解しやすくなることがメリットの一つです。
普段の生活を行なっていると「金銭のやり取りの有無に関係なく」取引が成立した時点というのが少し実感がないかもしれません。普段の生活の購入パターンは購入したものの入手とお金の支払いはワンセットであることがほとんどだからです。
タイミングがずれるものの端的な例は、現金主義では損益がわかりづらくなってしまう掛け取引が挙げられます。発生主義では「取引がは発生した時点」で経理の記帳することになるので、格段に分かりやすくなります。
また、減価償却により固定資産の取得額を規則的に費用計上できることもメリットの一つです。固定資産の使用によって生じる価値の減少を費用の発生と認識するというのが、減価償却の考え方ですが、これは発生主義の考え方が元になっている考え方と言えます。
例えば車などは買った瞬間だけではなく、乗り続けている限り、何かしらの個人や会社の利益活動に貢献することになります。つまりその乗り続けている期間それぞれ(一般的には1年ずつ)で、購入した時の総額を分割して、費用として計上し、その期間の利益をより正確に把握することができます。
その他、毎月ではなく数ヶ月に1度の精算になりがちなものも、期間ごとに均等に配分して計上することができるので、正確な損益計算が可能になります。
もう一つは、未回収や未払いの状況把握がしやすくなることです。取引単位で経理の記帳することになるので、どれが未払いで、未回収なのかを把握するのには非常に適しています。
それから、税務申告においては、基本的に費用に関しては発生主義に則った帳簿を要求されるので、発生主義的に経理の記帳しておけば、より戻しなく申告を行えます。
デメリットは、理解が少し難しく、いわゆる「簿記」に関する理解が必須という点です。直感的な現金の収支とタイミングが異なるので、混乱しやすい元が根本部分に存在すると言えます。未回収や未払いが把握しやすいとは言え、発生主義的には収益が上がっていても、未払いや未回収の存在で、現実のその時点での資金が足りない状況になることもあるので、その点は十分な注意を払っておく必要があります。つまりある程度の不確実性を踏まえているという認識は持っている必要があるということです。
発生主義における不確実性(未回収や未払いが存在し、)を低減できないかと考えられた方式が、実現主義になります。企業会計において、現状把握という点では発生主義のメリットを活かせば十分に要求に答えられる効能があります。ただ不確実性の部分については、納税という点と他者から判断(例えば投資先としての評価する等)すると、色々と難しくなるケースがあります。
特に納税における日本での基準、いわゆる「企業会計原則」と呼ばれる広く広まっている基準において、抵触してしまう部分(具体的には、「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」)が出てきてしまいます。つまりここに配慮しないと粉飾決算などのような事例が頻発してしまうことになります。
そこで、収益は、販売の実現をもって計上するというルールが考え出されました。それが実現主義と呼ばれるものです。納税申告における収益についてはこの実現主義に則った形の経理の記帳が要求されます。
今回は記帳の方式を見てきました。
ビジネスや納税を前提にした場合、発生主義や実現主義での経理の記帳が必須、もう少し大まかに言えば簿記の理解が欠かせません。正しい状況判断と、正しい納税を行うことは、個人、法人を問わず、ビジネスを行う時に最も基本的な前提、「Going concern」つまり企業が生き続けることがまず第一義と考えた時に、最も重要な要素になります。
ただ一方で、規模が大きくなればなるほど、経理の記帳しなければならない事項は増える一方で、減ることはありません。十分な規模になっている会社であれば、経理、会計のセクションが設置され専門性を高めていくことができますが、成長過程のスタートアップや個人事業主は本業の忙しさからすると、発生主義や実現主義での記帳を正しく行うことの負担は多くなってしまいます。
ビジネスを始めようと考える時、一番最初に考えることはその本業部分です。正しい資金管理と状況把握はもちろん必須の項目ではありますが、付随的な位置付けであることは変わりません。つまり経理と会計部分に対する準備や対策は後付けになりやすい分野、業務ということです。そういう業務を正しく構築するにはきっと骨が折れることと思います。
その際には、経理の記帳代行を始めとしたアウトソーシングを検討してみると良いでしょう。特に成長過程においては、可能な限り本業に集中したいものです。