経理の記帳を行う主な動機は、もちろん色々ありますが、その中でもとても大きなウェイトを占めるのが税務処理です。
その税務処理を滞りなくするためには、経理上の入出金の厳格な記録と管理が必須です。そして作成した書類は最終的に税務署という公的機関に整理、作成した書類を提出して、申告をします。
その流れで業務の効率化の為に、費用のことは別にして経理の記帳を自分以外の誰かに代行して貰うと考えると、公的な資格を持った人にお願いするべきと考えるのは自然な発想です。
そうすると、税理士、会計士とともに思いつきやすいのが、典型的な士業の一つである行政書士であると思います。
今回は、その行政書士に経理の記帳代行をお願いできるのかや、お願いできるとしたら、その際の注意点などについて解説します。
ちなみに経理記帳代行と税理士に纏わる記事がこのサイトにもありますので、税理士との関係に興味があればそちらの記事もぜひご一読ください。リンクは下2つのです。
記帳代行の依頼先は税理士でなくても大丈夫?4つの注意点とは
まず行政書士という職種について整理しておきます。
行政書士とは、行政書士法に基づく国家資格を保有した人のことを指します。Wikipediaからの引用は以下のとおりです。
公的に許された官公署への提出書類および権利義務・事実証明に関する書類の作成、提出手続、行政書士が作成した官公署提出書類に関する行政不服申立て手続(特定行政書士(後述)の付記がある者に限る)等の代理、作成に伴う相談などに応ずる専門職で、職務上請求を行うことができる八士業の一つである。
あまりに概要だけすぎるので、もう少しだけ詳しく見ていきましょう。特に、どんな書類を作成するのかという点を詳しく見ていきます。
行政書士の資格試験に合格した人は当然与えられます。それ以外にも資格を有する場合があります。
1つ目は、税理士、公認会計士、弁護士、弁理士の資格を持っている人は行政書士の資格を自動的に有しています。職務上書類作成に携わる機会も一般の人よりは多くなる以上、必要な処置なのかもしれません。
どの試験も超難関の難しい試験ですし、試験内容として法律の分野が問われる資格ばかりなので、自動的に資格が与えれるのも納得です。
それからもう一つは、国家公務員、もしくは地方公務員が20年以上行政事務に携わっていると認められた場合、行政書士の資格を貰えます。
公務員の方がセカンドキャリアを考えるときに資格保有するケースは比較的多いようです。試験を受けずに資格を貰えるなら、とりあえず貰っておいて、小さい事務所でも独立して仕事を行えるのは魅力的なのかもしれません。
公務員として日常的に行政事務に触れてこれば、提出された書類を受け付ける側なので、要求される知識の範囲は必然的に広くなります。レアケースに対する知識、経験は相当なものがあるかもしれません。提出する側とは触れる頻度という意味で比較にならないぐらいの経験を積むことが見込まれるという意味では、資格が付与されるのも納得できます。
こうしてみると、行政書士の資格が少し軽く見えるかもしれませんが、合格率を見るとそう簡単な資格ではないことが分かります。
大体10%前後の合格率です。合格率だけで見れば、公認会計士や弁護士とそれほど変わりませんので、十分に難関です。相当な勉強という裏付けがなければ合格しないことを合格率が物語っています。
公的な機関に提出する書類を作成するのが主な仕事です。大きく分類すると2つに分けられます。
一つ目が、官公庁に提出する書類の作成や手続きに関する相談、代理を行うことが大きな業務の一つです。
主に許認可に関するものが大半だそうです。書類の作成だけかと思うと簡単そうに見えますが、1万種類以上の書類があるそうなので、そのそれぞれに対して専門的な知識の裏付けがあることは行政書士の強味でしょう。
権利義務に関する書類とは、権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類のことです。少し分かりづらいですが、主な権利、義務に関するものとしては、遺産、贈与、売買、交換、契約、示談、内容証明、告訴状、嘆願書、定款などがあります。
公的に権利を主張するためには公的な裏付けとなる書類を作成しておく必要があります。我々が日常で行政書士と触れる機会はこちらのケースが圧倒的に多いと思います。
この行政書士の主な2つの仕事は、他の法律に別段の定めがある場合等を除いて、行政書士または行政書士法人でない者が報酬を得て業として行うことはできないとされ、違反すれば刑事罰を科されます。つまり行政書士の独占業務ということになります。
他の資格で自動的に付与されるので、見方によっては独占という言い方に少し語弊を感じますが、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成するという観点からみると、間違いなく独占業務に当たります。
以上が行政書士の仕事の概要です。この「官公庁に提出する書類の作成」というあたりと独占業務というあたりから、記帳代行を行政書士に依頼するという発想になるのかもしれません。遺産や贈与など税金に関わりそうなところを扱う際に登場するあたりも行政書士に記帳代行を依頼するという発想になるのかもしれません。
経理の「記帳とは、帳簿に事業を行っていくなかで生じた取引の内容を「帳簿に記入をすること」を指します。
個人事業主などが所得税を納める際や、会社が法人税などを納める際には、納税する人が自分で所得金額と税額を計算して申告し、納税をするという申告納税制度をとっています。
1年間(個人の場合は1月1日から12月31日までの間)に生じた所得金額を正しく集計、計算し、申告するためには、収入金額や必要経費に関する日々の取引の状況を帳簿に記録(記帳)する必要があるのです。
このようにして作成した帳簿は、一定期間保存することが所得税法で義務付けられています。
帳簿等の記帳は、決算書を作成することが一つの大きな目的として行われますが、単に税金の計算を行うためだけでなく、何にお金を使ってきたのか等の行動履歴という側面があり、事業経営の合理化・効率化を検討する際の重要な資料、指標となりえます。つまり経営判断に大いに役立ちます。
事業を長く続けていくためには、お金を正確に管理し、事業活動を計画し、目標を立てて、定期的にチェックし課題があれば早期に対処する作業が非常に大切です。
ただ会社の規模や状況によっては相当な領収書の処理もあり、日々行った方が良いことは分かっていても中々実行できないこともあります。そう言うときに記帳代行、経理代行という形でアウトソーシングすることで、業務の効率化や人的資源の最適化を行うことができます。
では、そのアウトソーシングを検討した際に、候補として出てくる行政書士に記帳代行を依頼できるでしょうか。
結論から言ってしまうと、「依頼できる」というのが答えです。もっと言ってしまうと記帳を代行することまでは、何か資格が必要な作業ではありません。従って行政書士という資格の有無は問題になりません。誰でも行うことができ、法律に違反すると言うことはありません。
経理の記帳という仕事に関して税理士以外が担当できるのかという話題は比較的ネットの記事にもなっていますので、興味がある方はそちらを見てみると良いかもしれません。冒頭に用意した記事のリンクもその辺りの解説を記載しています。
※後述しますが、最終的に確定申告等、税務署に申告するという段階については税理士のみに法律で限定されています。
しかし、誰でも代行できるとは言え、実際にきちんと業務が出来るかについて、つまり業務遂行能力は十分に検討しなければなりません。
当然、税金や控除に関する専門的な知識があった方が良いでしょう。業務としての経験値も重要なファクターです。その経験値を得るためには日常的な業務として成り立っているかが重要です。
それからこれもとても重要な要素ですが、簿記に関する知識も必須でしょう。帳簿をつけるという業務である以上、簿記に関する知識は必須です。行政書士が資格試験で簿記が要求されることはないので、行政書士に経理の記帳代行を依頼するときには、重要なチェックポイントになるかもしれません。
そういういわば能力判断として経理の記帳代行を依頼できるかどうかは、次の章でメリット、デメリットとして解説します。
考えられるデメリットは大きく2つあります。
「税務のスペシャリストではない」ことがまずデメリットとして挙げられます。
税務処理や会計処理を専門としている税理士や会計士という存在とは比べくもないくらい知識の差があると思います。何せ税理士や会計士は、税務、経理、会計のスペシャリストとして国から認定された方々ですから、当然と言えば当然です。
それは資格試験の科目から見ても明らかです。少し前述しましたが、行政書士は簿記に関する試験科目がありません。税理士、会計士にはもちろんあります。その点から考えても知識のバックグランドが異なります。
行政事務経験20年の公務員に行政書士の資格が付与されるように、税務署に勤めていた人は、税理士の資格を付与されるケースがあるので、税務署職員以外の公務員の方々も簿記に関する業務は手薄かもしれません。
法律に詳しいという点では、弁護士程では無いにしても広い範囲の法律に通じており、何かしらの申請、遺産の処理や贈与に関する書類作成には長けていますが、税務に関しては資格の面から見てそれほど強味を持っていません。
また行政書士としての本業と記帳代行という業務のシナジー効果が期待ができないので行政書士から見てもあまり旨味がなさそうです。
そして何より税務申告は行政書士が代行すると、法律違反になります。行政書士に独占業務があるように税理士にも独占業務があり、税務代理業務が税理士の独占業務に当たります。
税務代理業務とは、税務署に税金を申告して納付することや、税務署から調査や処分を受けたときに主張や陳述を行うことです。 本来は納税者本人がやることになっているこの税務を代理・代行することは、税理士の独占業務とされています。
その独占業務を行政書士が行なってしまうと法律違反として問われることになります。ということは、税理士が経理の記帳代行を請け負えば、ワンストップで確定申告など申告まで請け負ってもらえる可能性がありますが、行政書士は別途税理士を用意する必要があるということで、費用も別途掛かるということになります。
正直なところ、あまりメリットはないでしょう。今まで述べてきたとおり、税務申告を行うことができないので、ワンストップで業務を委託することはできません。行政書士の資格の成り立ちと税理士や会計士という資格が別途あることから言って、税務処理に専門性を持つことは相当なレアケースであり、一般的に言ってあり得ないと考えた方が良いでしょう。
ここまで、行政書士と経理の記帳代行について考えてきましたが、最後にまとめておきます。
・行政書士に経理の記帳代行を依頼することはできる
・ただし、あまり行政書士に依頼するメリットが無いのが現状
行政書士に限らず、記帳という業務に限定すれば誰でも代行することができる業務です。ただしわざわざ行政書士に依頼する理由、メリットはあまりないのが現状です。業務の守備範囲が異なるというのが最も大きな理由です。守備範囲が異なる以上、経験値も期待できないです。
そういう点では記帳代行、経理代行を主要業務として請け負っている会社の方が遥かにメリットが大きいと思われます。特に仕訳の経験値は圧倒的な差が出るでしょう。