仕訳とは、取引の内容を貸方と借方に細分化し、勘定科目と金額を仕訳帳に記載していく業務です。
いつどのタイミングで何のためにいくら増減したかを可視化するために必須の業務であり、業種や企業規模を問わず企業活動をする全ての会社で求められます。
しかし、仕訳ができる人材が自社におらず、業務を誰が担当するのか迷走している企業も少なくありません。
今回は、社内に仕訳ができる人材が不足している場合の手法を解説します。
仕訳に必要なスキルにも触れますので、今後の経理人材育成について考えたい方は参考にしてみましょう。
まずは、仕訳業務を担当するために必要なスキルをリストアップします。
結論から言うと簿記の知識は必須となるため、併せてチェックしていきましょう。
仕訳だけでなく経理業務全般を担当するに当たり、簿記の知識は必要不可欠です。
簿記の知識は日々の伝票処理など一見単純に見える作業でも使用します。
経理部社員になるために簿記の「資格」がないと就業できないわけではありませんが、最低限独学でも簿記の「知識」だけはないと、後々困ってしまうことが多いでしょう。
また、仕訳を担当する場合はより詳しい知識が必要です。
仕訳の基本である借方と貸方の違いを理解したうえで勘定科目ごとに細分化して記載するスキルや、財務諸表の構造・仕組みに関する知識が求められます。
また、資産・負債・純資産・費用・収益など一見すると内容がわかりづらい専門用語を正しく理解して使わなくてはいけないシーンも多いため注意しましょう。
ペーパーレス化やデジタル化が進んでいる昨今、仕訳業務の大半はパソコン上でおこないます。
全て紙で実施している企業もゼロではありませんが、年々減ってきています。
Excelであれば数字の足し引きなど簡単な計算が自動でできるほか、マクロを組んで計算や表示をプログラミングすることもでき、ヒューマンエラーを減らすために効果的です。
なかには専用の会計ソフトを使って仕訳業務をシステム上で処理している企業も多く、テレワーク社員による社内ネットワークを通さない業務やオンラインでの税務申告に活用しているケースもあります。
そのため、今の時代の仕訳業務には最低限のパソコン操作スキルが必須だと理解しておきましょう。
どんなに簿記スキルがあってもパソコンが触れない方やITリテラシーの低い方は、仕訳業務向きではないと言えます。
机に向かって黙々と作業するイメージがまだまだ根強い経理業務ですが、実は他部署や他のメンバーと円滑なコミュニケーションを築けるスキルが求められます。
現場から上がってくる領収書や請求書に抜け・漏れがあって都度確認するようなシーンや、仕訳のミスをなくするための情報共有をするシーンでコミュニケーションスキルは多いに役立つでしょう。
ときには役員など経営層と対等な立場で数字的な観点から財務状況を解説する経理部であるからこそ、上司とも同僚とも上手く付き合える人であることが理想です。
反対に、コミュニケーションスキルが低い人を仕訳担当者として指名した場合、ミスや抜け・漏れに気づくチャンスが少なくなってしまう可能性があります。
日常的にコミュニケーションが取れていれば複数人の目で業務をチェックできますが、そうではない場合業務が属人化しやすく、ひとりのマンパフォーマンスに頼りがちになってしまいます。
仕訳がブラックボックス化することも起こり得るため、コミュニケーションスキルの高い人を配置することをおすすめします。
仕訳には簿記などの専門知識も必要ですが、それよりもミスなく確実に仕事をこなすことが求められます。
論理的思考力のもとに数字を扱い、一定のマニュアルやルールに則ってひとつずつ確実に処理できる人材がいれば、最高の適任者として活躍してくれるでしょう。
反対に、クオリティよりもスピードを重視する人や数字の取り扱いが苦手で感覚に頼りがちな人は仕訳業務に向きません。
また、経営者のように仕訳業務以外にも担当しなければいけないことが多く、まとまって集中する時間を確保できない人も向いていないでしょう。
ある程度仕訳業務に集中できる時間を確保でき、かつコツコツ丁寧な作業ができる人を選定することで、ミスを最大限減らすことが可能です。
ここでは、万が一社内に仕訳に適した人材がいない場合の対処法を解説します。
それぞれのメリット・デメリットにも触れていきますので、今後の戦略にお役立てください。
求人サイトや転職エージェントを利用して求人票を出し、新たに経理知識のある人材を正社員として雇う方法です。
最もオーソドックスな方法であり、自社にマッチする人材が見つかれば仕訳以外のさまざまなシーンで貢献してもらうことが可能でしょう。
自社マインドを育成できればエンゲージメント高く働いてもらうことも期待できるため、長い目で人材を育てたい企業に向いています。
当然、長い目で人材育成するということは戦力になるまでに時間を要するということでもあります。
経理部での勤務経験が長く簿記知識が豊富な人を雇ったとしても、書類の場所・データ入力のフォーマット・会計システムの使い方・自社の社風やメンバーの特性などを事細かに説明して組織に馴染んでもらうにはそれなりの時間がかかります。
仕訳とは直接関係のない部分に時間を取られ、最悪の場合短期で退職されてしまう可能性もあるでしょう。
丁寧な研修や付きっきりで面倒を見れるメンターを用意できない場合は、別の手段で効率化を図る方がよいかもしれません。
経理業務に強い派遣会社に相談して派遣社員を雇ったり、短期のアルバイト・パートを活用したりする手法もあります。
特に派遣会社は応募者の簿記知識・資格・実務経験年数などを細かくチェックしたうえで紹介してくれるため、人材のミスマッチを防ぎたいときには効果的だと言えるでしょう。
しかし、派遣社員でもパート・アルバイトの場合でも、前述したような自社のルールやマニュアルを理解してもらうための時間は発生します。
細かな質問に対しても個別で対応する必要があり、どちらにしても育成コストはかかると考えておきましょう。
正社員のように自社マインドが高くないためモチベーション向上が期待しづらい点や、あらかじめ契約期間が定められているため短期的な貢献しかできない点もデメリットです。
元々在籍していた経理社員の退職・休職などにより一時的に抜けが発生してしまうシーンでのみ、検討することをおすすめします。
クラウドソーシングサイトやスキルマーケットを活用し、フリーランスに仕訳業務を委託する方法です。
依頼する人材を自社で自由に選定できることが強みであり、相性のよさそうな人を選ぶことが可能です。
また、スキル・経験・知識・資格に応じて料金が変動するため、自社が求めるレベルに合った人を選ぶことができれば効率よく外注できるでしょう。
しかし、人の選定こそが最も難しく、トラブルになることも少なくありません。
希望した納期までに納品されない、クオリティにバラつきがある、固定電話などがないためスムーズかつリアルタイムなコミュニケーションができないなど、デメリットを承知のうえで依頼する必要があるでしょう。
業務委託契約書なども自社で作成し、料金や条件面で相違がないか通常以上に気を遣って確認していく必要もあります。
別業務でフリーランスへの委託を既に実施している場合など、ノウハウのある企業向けだと言えるでしょう。
税理士事務所・公認会計士事務所などに相談し、仕訳業務を委託する方法です。
士業が在籍しているため信頼性が高く、当然ながら簿記・仕訳・経理に関する知識が豊富です。
納税に関する申告書の作成や実際の申告業務も委託できるほか、税務関連のコンサルティングやアドバイスを受けることもでき、税理士独占業務を含めて頼れる先を探している企業におすすめです。
ただし、他の外注手法と比較してコストが高くなることは承知しておきましょう。
トップレベルで知識とスキルの高い専門家を頼ることになるため費用が高く、顧問契約を締結することによるランニングコストが生じます。
仕訳業務だけを委託したい場合など、必要最低限のサポートを期待したい企業にはあまり向かないでしょう。
自社で人材を雇用することにこだわらない場合、仕訳代行の活用を検討してみましょう。
仕訳代行はその名の通り仕訳業務に特化してアウトソーシングを受ける業者であるため、内部スタッフの多くは経理経験が豊富です。
簿記知識もあり、ミスや抜け・漏れなく確実な仕訳を期待したいとき大いに貢献してくれるでしょう。
また、税理士事務所や公認会計士事務所のように顧問契約を締結せずに済むこともポイントです。
依頼したいときに依頼したいだけの分量を頼むことができ、従量課金制で料金が変動する形態であるため不必要なコストがかかりません。
毎月定例で依頼して仕訳のルーティン業務を完全に外部委託することも、季節ごとなど特に業務量が多くなりがちなタイミングでスポット依頼することもでき、使い勝手に優れていることもメリットです。
コストパフォーマンスを重視したいときやフットワーク軽く依頼したい企業にこそ、おすすめの手法だと言えるでしょう。
最後に、仕訳代行を活用する際のポイントを紹介します。
他の手法と比較して仕訳代行のメリットが多いと感じた場合は、下記の要素を抑えて早速業者の選定に入りましょう。
仕訳代行は仕訳業務に特化した業者であるため、必要な知識やスキルを持っているスタッフを多く抱えています。
基本的には問題ないクオリティで納品されると思って問題ありませんが、初めて依頼する際はクオリティの確認を十分意識しておきましょう。
可能であれば、小規模なボリュームから依頼を進めていくことがおすすめです。
納期までの余裕をたっぷり設け、納品されたデータを丁寧に検品していけば、クオリティのレベルも分かるでしょう。
問題ないと分かった段階でまとまった量を定期発注するなど、スモールステップで依頼の枠を増やしていくことが大切です。
また、業者のHPをチェックしてどんな仕訳を請け負うことが多いのか確認してもよいでしょう。
同業他社など自社と共通点のある会社から定期的に発注してもらっている場合や、大企業からまとまったボリュームを受けた経験のある場合は、信頼性が高まります。
また、日本人スタッフのみでの作業をしている、複数人でダブルチェックしているなどクオリティアップのための施策を取っている業者であれば、安心して依頼しやすくなるでしょう。
外部の業者に仕訳を依頼する場合、十分なセキュリティ対策をしておく必要があります。
もちろん業者自身のセキュリティレベルも重要ですが、丸投げにせず自社でできることも徹底しておきましょう。
例えば、セキュリティソフトをインストールして外部からの不正アクセスやハッキング対策をしたり、特定の担当者からのみ仕訳の依頼をしたりする方法があります。
また、プライベートのパソコンやスマートフォンには情報を残さない、データファイルにはパスワードをつけてやり取りするなど基本的な項目も徹底しておきます。
ITリテラシーがない企業が外部の業者を活用する場合、不慣れなことが多く気づかぬ内に情報を流出させてしまっていたというケースも少なくありません。
気になることは何でも仕訳代行に相談し、あらかじめ知識を入れておくことも肝心です。
仕訳業務を担当する場合、簿記の知識は絶対に欠かせません。
自社に担当できそうな人材がいない場合は、正社員を雇う・派遣社員やパートアルバイトを雇う・フリーランスに外注する・税理士事務所などと顧問契約を締結するなど新たな手法を考えていきましょう。
なかでも仕訳代行は、仕訳業務だけに特化して外注することが可能です。
高い専門性とコストパフォーマンスを両立させたい場合は仕訳代行を活用し、業務効率化を狙っていきましょう。