日本で何かしらの事業を始めたら、どこかに拠点を作ることになります。そうすると必然的にその拠点を作ったところとの関わりが否応なしに発生することになります。否応なしに「関わり」と言ってしまうと少しネガティブな響きが出てしまいますが、関わりを持つことで思わぬサポートを得られる可能性もあります。その一つが商工会です。
後で詳述しますが、その商工会が提供しているサポートの一つに経理業務のサポート、記帳代行の実施などがあります。
今回は、その商工会による経理の記帳代行について見ていきます。
まず、「商工会」とは何かについてしっかりと押さえておきます。
商工会は、全国各地に約1600もの商工会が設立されています。その会員構成は、様々な業種の事業者で、全国に約78万が加入されています。加入している事業者の割合(組織率)は、全国平均で57.3%です。幅広い業種の事業者が加入し、これだけの規模と組織率を有する団体は他に中々ありません。
よく似た組織として、「商工会議所」があります。これは事業体への支援という大きな目的では同じ組織ですが、根拠となる法律、所管している官庁、会員資格における規模、業務内容も異なります。
商工会議所は、商工会議所法を根拠とし、経済産業省が所管しています。会員も大企業も加入できます。また、主に市の区域に設立されています。
商工会とは、商工会法という法律に基づいて設立された公的団体で、その目的は、商工会法の第1条にも記述されています。
この法律は、主として町村における商工業の総合的な改善発達を図る等のための組織として商工会及び商工会連合会を設け、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする
また第3条には
商工会は、その地区内における商工業の総合的な改善発達を図り、あわせて社会一般の福祉の増進に資することを目的とする
とあります。
つまり簡単に纏めてしまえば、その商工会に属する地域の商工業に対する経営的なサポートをしてくれる法律に裏付けられた公的な団体ということです。また、法律で裏付けされている団体なので、国の経営改善普及事業の窓口、実施機関という側面も持っています。
もちろん加入するためには条件があります。全国商工会連合会のサイトに記載されている内容は以下の通りです。
商工会が設立されている市町村内で、原則その地域内で引き続き6ヶ月以上、事務所・店舗・工場などを有する事業者であれば、規模の大小にかかわらず、誰でも加入することができます。 もちろん、個人事業者でも自宅兼事務所のSOHOの方でもOKですし、農林水産業を営む方でも、収穫物を店舗などで販売している方なら、加入することができます。
※これらの要件を満たさない方でも、特別会員制度(賛助会員制度)、あるいは定款で別段の定めを行う「定款会員」を設け、会員サービスを行っている場合もあります。
全国商工会連合会のサイト > 商工会について > 加入するには
半年程度継続した事業者であれば、加入できますので、加入の敷居は低いと言えます。
会費ももちろん発生します。詳細については所属したい商工会に問い合わせて確認が必要なようですが、全国商工会連合会のサイトによれば、概ね1000円〜2000円ぐらいのようです。これもそこまで大きな費用ではないかもしれません。あとは費用対効果次第でしょう。
商工会は、法律によって裏付けられている公的団体です。この点が、他の商工業者の組織と大きく異なる部分です。法律でも以下の3原則を定めています。
・営利を目的としない
・特定の個人や団体の利益のために行動しない
・特定の政党のために活動しない
つまり公的サービスを提供する機関として、公平性の担保、営利を目的としないという点は非常に強調されているということです。
ここまでを簡単にまとめておきます。
商工会は、法律によって裏付けされている公的な団体で、その地域に属する商工業の持続的な発展のためサポートを行うことを目的としています。加入条件や費用はそこまで高くなく、敷居が低く設定されています。また非営利団体で特定の個人や団体、政党に偏ることなく公平であることが法律で定められています。
では、商工会では、実際どんなサポートをしてくれるのでしょうか。次はその点を見ていきます。
商工会の事業は、大きく分けて2つの種別があります。地域総合振興事業と経営改善普及事業です。
地域総合振興事業は、より長期的な視野から地域を考え、商工会の地域の商店街の整備や地域産業おこしのイベントの開催などを通じて、地域の活性化を目的とした事業のことを指します。
商工会によって取り組み方は様々ですが、創業支援で地域の雇用増進を目指したり、イベントを企画し、地域への観光客の呼び込みを目指したり、より魅力的で生活しやすい地域を整備する街づくりのため商店街、イベント広場の整備、また各施設の近代化の支援を行ったりしています。
また、地域の振興や事業発展のため、自治体や行政に対して、意見を具申することも重要な業務の一つで、商工会で意見集約して建議したりもします。
小規模事業の経営者は、自らが一労働者として働いているケースがほとんどです。よく言えばプレイングマネージャーですが、実際には実業務に多くの時間を取られることになり、往々にして会社全体の合理化ということに中々着手できません。
またどうしても視野が狭くなりがちで、何かを学ぶ時間を作るにも一苦労ということも多いはずです。そういったネガティブな環境を改善するためにサポートする事業が経営改善普及事業です。地域総合振興事業はどちらかというと長期的な視野の投資を行う事業になりますが、経営改善普及事業は、より具体的な各事業体の経営課題の解決、解消を目指したサポートを行います。
もう少し具体的な支援内容を見ていきましょう。
経営指導員と呼ばれる商工会の職員が、会員事業者の悩みや課題に対してアドバイスを行なっています。窓口での相談だけではなく、地域を巡回して実地、現場でのアドバイスも行っているようです。事業継承に関する相談などもこの分野の相談です。
より経営を安定させるために金融や信用保証など主に資金繰りに関する相談や斡旋も受け付けてくれます。特に商工会の推薦による日本政策金融公庫が無担保・無保証・低利で融資するマル経資金融資(小規模事業者経営改善資金)は運転資金にも設備資金にも使えます。多くの小規模企業に利用されている実態があります。
その他商工会会員向けの優遇提携ローンなどもあり、資金面での相談相手としては頼れる相手かもしれません。
小規模事業者が最も困ることの一つがこの販路開拓です。これについても小規模事業者を一定数集めて国内外の大企業に対して直接売り込む「技術提案型商談会」というようなアプローチなど積極的に行っている商工会も多くあるようです。
労務相談にも乗ってくれます。就業規則の制定や賃金規則、退職金規定などルール作りから、従業員の福利厚生や社会保険、労働保険、退職金などの事務実務などお座なりになりやすい部分についてもアドバイスしてくれます。
さらに「労働保険事務組合制度」という制度があり、労働保険事務組合として商工会が認可されている場合があります。この制度により事業主が行なうべき労働保険事務を、商工会が労働保険料の納付や労働保険の各種の届出等をすることができるような制度が設けられています。
厳密には商工会ではなく、各都道府県の商工会連合会による事業ですが、弁護士や税理士、公認会計士、弁理士、中小企業診断士などを派遣してくれます。原則1テーマにつき1回など制限はあるようですが、依頼すると商工会連合会が課題ごとに適切な専門家を選定し、無料で派遣してくれます。
都道府県の商工会連合会に設置されている倒産防止特別相談室(経営安定特別相談室)で、倒産のおそれのある事業体から事前に相談を受けて、経営的に見込みがあると判断した場合は関係機関に協力を要請し、再建を目指すことができます。
残念ながら見込みがないと判断した場合は、円滑な整理を図ることにより、地域の社会的混乱を未然に防止できるように努めてくれます。弁護士や公認会計士、税理士など専門家がスタッフとして協力してくれる体制があるようです。
今回のテーマに一番関わる事業です。
税金の各種控除について知りたい場合や、青色申告制度についてなど税制に関することから、経理の帳簿の付け方から決算、申告方法まで丁寧にアドバイスしてくれます。
決算期や申告する時期には、税理士が専門の相談員として無料の税務相談に応じてくれたりもします。有料で記帳代行サービスを行ってくれる商工会も多いようです。
記帳代行のサービス内容そのものについてはさほど特記するほどの差は無いかもしれません。
商工会に記帳代行をお願いするメリットは、「商工会に入会する」という行為そのものでしょう。広く商慣習や現在のビジネス環境に関する知識が広い方々がいる商工会という機構でサービスを受けることになるので、付随的に様々な気づきを得られる可能性があることです。
個人事業主などはどうてしても視野が狭くなりやすいので、様々なノウハウが蓄積されている商工会に触れることで、何かのアイディアが触発され、何かを生み出す切っ掛けになったり、課題解決の糸口が見つかったりするかもしれません。
あとは、税理士に無料で相談を受けられる可能性があることでしょう。商工会のサービスに依存するので、確約的に相談を受けられるというわけでは無いですが、経理の記帳代行を受けつつ、税理士に無料で相談できるのであれば、所属する商工会によってはそこはメリットになると思います。
一つは、記帳代行の費用だけでは済まないという点です。商工会の月額の会費を支払うことが入会の大前提です。その上で経理の記帳代行などの有料サービスなどを受けられる仕組みになっていることがほとんどのはずです。あくまでその他のサービスを利用する前提で考えた方が良いと思われます。
また、事業を立ち上げてすぐには利用しにくい点もデメリットです。原則6ヶ月の事業継続が入会の前提になっているので、最低半年待つ必要があるので、事業立ち上げ時から経理の記帳代行をお願いしようとしてもできないことになります。
またメリットとしてあげた付随的な気づきを得られる可能性についても、先細りが心配されています。様々なノウハウの蓄積という点では、商工会の職員の高年齢化と若い世代の職員が増えていない現状から先細りの可能性が指摘されています。1年、2年というスパンでどうこうということではないですが、事業体としての継続性に黄色信号が点りつつあるところは気になるところです。
また似たような懸念点ですが、商工会はその組織の性格上、大都市圏ではないところに置かれる場合が多いです。つまり残念ながら人口減少の影響を受ける可能性が高くなっています。
まとめです。商工会の仕組みを見つつ、経理の記帳代行サービスを提供している機構としてメリット、デメリットを見てきました。
法律の裏付けのある公的機関として商工会は、中立性、独立性は法律的に義務があるので、とても安心できる機関です。また広く会員を募っている機関でノウハウの蓄積という点でも信頼できる機関です。
ただ、経理の記帳代行を依頼するということだけを目的にした場合は、あまりメリットがないかもしれません。あくまで商工会が提供しているサービス全般を活用できるメリットがあるからこそ、商工会の経理の記帳代行の選択肢が入ってきます。
事業開始直後や、資金面での不安がそれほど無く、販路についてもとりあえず大きな課題が無いという場合は、単純にコストを中心に考え、経理の記帳代行を専門にしている業者も多く存在するので、そちらの活用も視野に入れて検討した方がよいでしょう。
経理の記帳代行の選び方については、他の記事でも触れているので、そちらもぜひご一読ください。